甲本ヒロトも例外ではなかった。ちゃんと与えていた。
甲本ヒロトって知ってだろ。
そう、ブルーハーツで有名なあの人だよ。お前好きだもんな。今はクロマニヨンズだっけ?いまだに現役だなんて信じらんねーよな。
あのな。ヒロトはさ、デビューした最初は「人にやさしく」とかみたいな、応援ソング的なものをパンクサウンドに乗せて、まあそれがめっちゃ受けて売れていったんだよ。
でも、知ってる人は知ってると思うが、いつしかそういった応援歌的な歌詞は影をひそめて、どんどんシュールな方向にいっちゃったんだよな。
まあシュールって言っても何言ってんのか分かんねー、みたいなめちゃくちゃじゃなくて、めっちゃ計算された文学的な歌詞ってことなんだけどな。
それはブルーハーツ後期から特に顕著で、その後解散してハイロウズになってからはもうそういった方向が完全に主流になったんだよな。
で、それまでファンだった人はちょっと戸惑ったと思うんだよな。
応援歌的なものを求めていた人は、ちょっと何言ってんのかわからない状態になって。
まあ俺もそのうちの一人なんだけど、まあハイロウズはブルーハーツよりサウンド的にはめっちゃかっこいいので全然OKだったんだけど、頭の片隅でずっと思ってたんだよ。
「どれが本当のヒロトなんだ?」ってな。お前、わかるか?
自分なりに、一応結論付けてたのはだな、まあ最初はそういう手法をあえて狙っていたってことにしてたんだよな。
つまりそれまでパンクロックなんてのは尖ってて、世の中くだらねーとか、ファックオフ!とか、政治がーとか、そんなアウトローのイメージだったものに、あえて応援ソング的なものを歌詞にして歌にしたらインパクトあるんじゃね?みたいなね。
ヒロトはそういうのを狙って戦略的にやってたんだろな、なんてそう思ってた。
だから「がんばれー」みたいなのは一種のスタンスというかポーズで、まあウソまでとは言わないが、そこまでヒロトの本音に近いものではないだろうって思ってた。
でも最近思うのは、実はそのブルーハーツの最初の方に歌ってた「がんばれー!」的なものこそが、ヒロトの本音、もっといえばヒロトそのものなんじゃない?ってこと。
・・・もう分かるよな。ここで散々言ってきたもんな?
そう、ヒロトもめちゃくちゃ与えてたんだよ。
世の中の元気ないやつらに対して「がんばれー」って元気づけることで、いろんな人を救ってたんだよ。だから成功してんだよ。最初からそっちが本音だったんだよ。またお前、だまされてたんだよ。
きっと途中で恥ずかしくなったんだろうな。
世間のイメージがそっち方向にふれすぎたってのも嫌になった理由なのかもしれない。
だからどんどんヒロトは自分を隠すというか、本音を探られたくないってなって、文学的なシュールな方向にいっちゃったんじゃなかろうか。
何が言いたかったかっていうと、まあお前も早く与えられるようになれればいいなって話だな。
ヒロトも例外ではなかった。与えたからこそ受け入れられた。今のお前ならもう分かるだろ?